【ライフログというBig Dataから編み出される関心グラフ(2)】from 関心空間ファウンダーブログ

2011年1月13日木曜日

 例えば、関心空間も一種のライフログであり、書き手が自分だけでなく他人にも共有する価値があると考えた客観性に基づいた関心を更に自分に適合するようブックマークやつながり、コメントによって更新情報や関連情報を得る仕組みなのですが、この仕組みにも特定の条件下では「選択過多」の課題がありました。つまり、知的好奇心が幅広く、強いユーザーは無制限に情報を発信し、それに対する反応も何倍にもなって返ってきますので、潜在的に自分に関心が合うことが保証された情報にも関わらず、ある一定量を超えるとその情報を無いものとして、処分(無視)する必要が出てきました。これは、関心空間だけでなく、著名なブロガーや交友関係が極端に幅広いソーシャルネットワーカーに必然的に起こる現象かと思われます。

 こういった現象はインターネットが無い時代にも特定の権力者や情報機関には同様の状況が起こりましたし、様々な悲劇を起こしたことも歴史が明らかにしています。例えば、第二次大戦末期に米国の原子爆弾開発の情報は日本の末端の諜報部員によって取得されていたにも関わらず、重大な情報として情報機関の上層部に伝わることがなかったであるとか、9.11も事前にテロを予測する情報が米国の情報機関が手に入れながら、特別な措置を取るに至らなかったというようなことです。これらは膨大かつ何がどの程度信憑性があるかどうかがわからない情報を多くの人間が少なからず偏見を持って取捨選択するプロセスを経るため、必ず起こりうる弊害なのです。そのため、人間が何故大量の情報から特定の情報を瞬時に選んでいるのか、また捨てる基準について理解が深まれば、Big Dataとの付き合い方も変わるはずです。また別の見方も存在するでしょう。一見認知(Attention)を得る方法は、かなり生理的には単純かもしれないので、重要そうな情報として無意識下に格納する基準を知ることで、無意識(subliminal)に訴えかける広告手法を考えることも可能かも知れません。(米国では法律で禁止されており、日本でも問題になり易いかと思いますが)

 さて、ライフログの詳細な説明に字数が取られてしまいましたが、今回表題にした<関心グラフ>とは、上記のライフログからコンピュータが参照可能なパーソナルなオントロジー(趣味嗜好の体系)を抽出することを言います。つまり、これまでのマーケティングでは個のデータではなく、特定の属性のグループに属する個として分類されて、その細分化をOne to One Marketingなどと呼んでいたのですが、関心グラフが構築されると他のユーザーが持ち得ないユニークな経験に応じた推論や選択支援も可能になります。例えば、衝動買いによって失敗したパターン例を分析するとか、迷った時に後で買って良かったと思った色の傾向であるとか、特定の体調の時に油分の多いものを避けないといけないというようなことがコンピュータによって提示されるでしょう。(ある意味、赤ん坊の時から身近にいる母親の体験をデータベース化したようなものかも知れません)

 このように関心グラフは、ソーシャルグラフに下位の嗜好データが増えただけのように思われがちですが、実は、ソーシャルグラフアドとは全く違う機能を果たすことも可能なのです。つまり他人に影響され易い購買特性をソーシャルグラフが提示出来ても、その人独自の購買傾向は時系列や後に説明するエピソード記憶(=物語性/ストーリー)に起因するため、協調フィルタリングのようなクラスタリング手法ではその抽出が難しいのです。

 先程、脳が意識に上げないけれども、重要そうな情報として無意識下に格納する基準が分かれば面白いと言った中で、一部科学的に判明していることのひとつがエピソード記憶と呼ばれるものです。人間は7±2という短期記憶の問題があり、複雑で冗長な情報を覚えるために意味を持った構造化すなわち物語として記憶する機能が備わっています。そのため、他人との記憶を照合しながら、過去に遡って、忘れ物をした場所を推定するというようなことが可能な訳です。ですから、関心グラフを厳密に構築するのであれば、単に好き嫌いを段階的にを示すだけでなく、例えば、亡くなった祖父との思い出の品であるというような他人と数値比較が難しいメタデータを持つ必要性もあると考えます。

 話が複雑になってしまいましたが、関心グラフはマーケティング利用には強力なデータにはなるものの、その構築がコンピュータサイエンスだけでなく、医学や脳神経科学、心理学や社会学など様々な分野の知識を必要とするのは明らかでしょう。この話題については、今後長い議論と多くの実証実験を必要とするため、引き続き考察を進めたいと思います。

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